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Change The Cycle Report
新しいサイクルをつくる、みんなのレポート

レポートMV

REPORT

2023.12.06

サイクルから生まれる
KISARAZU CONCEPT STOREの空間デザイン。

2023年6月、木更津に開業したファッションのテーマパーク「KISARAZU CONCEPT STORE(以下、KCS)」。ここは、これまで倉庫で眠っていたデッドストック品や規格外品に光を当て、誰かのもとへと手渡すという、新たな服のサイクルを生み出す実験場でもあります。

常時約1万点のファッションアイテムが並ぶ敷地面積約7,300㎡、延床面積約3,000㎡の大空間。実は空間のデザインにおいても新しいサイクルを生み出すための工夫が詰まっています。

一体どんな考えのもとデザインを進めたのか。空間デザインを手がけた株式会社スマイルズ 齋藤正人さんと、設計施工を担当した株式会社船場の青木崚さんに、KCSを案内していただきながらお話を聞きました。

ごみ置き場のデザインからはじめました

――まずはこの店舗全体の空間デザインの考え方を教えてください。

スマイルズ 齋藤正人さん(以下、齋藤 ※敬称略)
前提として、ワクワクする買い物体験が、お客様の体験価値になると考えて、偶発的な服との出会いを演出するような仕掛けを検討しました。非常に広い敷地なので、北棟と南棟の二つに分けて、その二つを迷路を通り抜けるように進む回遊動線でつなぎゾーニングしています。

そして、この店舗そのものがデッドストック品に再注目することと、お客様に新しい価値を提供して楽しんでいただくということを掲げているので、空間デザインにおいては「RELIGHT and DELIGHT」というコンセプトを提示しました。

何もかも新しいものを作るということではなく、マテリアル(素材)にしても什器にしても、再利用できるものはうまく取り入れる、ということは最初から頭にありました。

空間デザインを手がけた株式会社スマイルズ 齋藤正人さん

船場 青木崚さん(以下、青木 ※敬称略)
店舗のコンセプトはまさに今の社会の流れと合っていますし、初めてこのプロジェクトの話を聞いたときはシンプルにワクワクしました。

一方で、弊社としては限られた期間内に施工して最後までしっかりと仕上げるというミッションがあるので、未知なるものへの挑戦にワクワクする気持ちと不安とが半々だったというのが正直なところでしたね(笑)。

設計施工を担当した株式会社船場の青木崚さん

青木
弊社は「未来に優しい空間を」というミッションを掲げていて、サステナビリティに関する取り組みにも企業としてチャレンジしています。

建設業はどうしてもごみを出してしまいますが、それを課題として捉えていて。これまでもリサイクル率を上げる取り組みを実施してきましたが、このお店はそもそも「新しいサイクル」をテーマにしているので、リサイクル率100%を達成しようと、企業としても、KCSチームとしても思っていました。

――実際にはどういった取り組みをされたんですか?

まず最初に取り組んだのは、施工時のごみ置き場のデザインです。
建築の現場でのリサイクルは、分別が非常に大事なんですね。従来の現場だと大きな箱にあらゆるごみをどんどん入れてしまっていたんですが、ちゃんと「木材」「紙くず」「鉄くず」など素材ごとのごみ箱を設置し、職人さんにも一目でわかるようにして、分別を徹底してもらいました。

それが大きな第一歩です。もう一つは、最後の処理まで追い続けること。分別したごみがリサイクルされているか最後まで追いかけてデータ化し、トレーサビリティーを確保しました。そうして内装工事のリサイクル率100%を達成することができました。

素材の“入口”と“出口”を考える

青木
このKCSプロジェクトの背景には素材のサイクルを意識した設計思想があります。
我々は、サステナビリティに配慮するうえ、設計施工の段階で素材の“入口”と“出口”を考えることが大事だと思っています。
“入口”とは素材を決める時にそもそもエシカルな素材を選ぶこと、そして“出口”とは将来的に建物がリニューアルまたは廃棄されることを想定して、施工上の工夫をすることです。

例えば、“入口”という観点では、レジカウンターに古紙と廃プラスチックをリサイクルした合成材を使用していたり、壁材には古い建物を解体した時に出た古煉瓦を採用したりしています。

写真左上:中国の古い建物を解体した際に出てきた古煉瓦を再利用した壁面。
写真右上:レジカウンターには古紙と廃プラスチックをリサイクルした合成材を活用。写真下:残布を活用して制作したチェア。

青木
また、“出口”のことを考えて分別しやすいよう単一素材を用いたり、ばらしやすいように工夫したりもしています。例えば、ここの間仕切りは通常、構造材として使用されるLGSを活用しているのですが、解体時に分別しやすいよう接着剤を使用せず、すべてビスでとめるという工夫もしています。

齋藤
LGSは通常は壁紙を貼って壁の内側に隠して使うものですが、ここではあえて露出するように使いました。 構造材をそのまま用いることで、無駄な仕上げ材を使わない、かつ、ユニークなデザインになっていると思います。KCSの空間の特徴の一つは、デザイン的な特異性とサステナビリティを同時に実現しているところと言えます。

構造材として使用されるLGS。通常はこの上に仕上げ材が貼られるが、KCSではそのまま現してデザインとして使っている。

再編集から生まれるクリエイション

――店内を見渡すとかなりテイストの異なる什器が目に飛び込んできます。どのように選ばれたのですか?

齋藤
什器はスマイルズが展開している「PASS THE BATON」や「giraffe」をはじめ、さまざまなブランドさんが、実店舗で使っていたものをお譲りいただいて使っています。
三井不動産さん、船場さんとともにブランドさんの倉庫に出向いて、使えそうな什器をピックアップしました。

写真左上、右上:ブランドが店舗で使っていた什器。使われなくなって倉庫で眠っていたものを引き取り活用した。

青木
倉庫に眠っていた什器は一部破損しているものもありましたが、そういう部分は弊社の方で補修して納めています。

齋藤
アンティークの棚や大理石のテーブル、ピンクゴールドの大型棚など、さまざまなテイストの什器を再利用しています。
一見、こういったものを使うというのはデザイン上の制約とも言えます。
ただ、ここではこういった什器やマテリアルたちをリソースとして捉えて、そこから新たなクリエイションが生まれていくとも思っていて。再編集の先にあるクリエイションというか、編集とクリエイションを行ったり来たりする感覚がありましたね。

普通はどこかの店舗で使っていた什器を再利用する機会はないと思います。
しかも一つのブランドではなく、さまざまなブランドさんのものを使うとなるとなおさらです。三井不動産さんと各ブランドさんとの信頼関係があってこそだと思います。

また、うちの社員が住んでいたアパートのサッシを店内のパーテーションとして使用するという試みもしました。アパートが取り壊しになると聞いて、これは宝物がありそうだなと思い、大家さんに交渉して引き取りました。通常は廃棄されていた素材がここでは、新たな役割を果たしています。

取り壊されたアパートで使われていたガラスサッシをパーテーションとして活用した。

青木
また、この店舗では陳列する商品が変化していくということを聞いていたので、売り場の変更にフレキシブルに対応できるような設計というのも意識しています。 壁面にはあらゆる場所に陳列用パーツを付けられるようなシステムを採用しています。新たに什器や棚を準備しなくても、既存の陳列パーツを付け替えるだけで売り場・VMD変更にフレキシブルに対応できます。

齋藤
Cゾーンの「ファッションジャングルジム」と呼んでいる、ちょっと段差があるところも同じ考え方ですね。100%リサイクル原料でできたパレットを什器や階段として使用することで、こちらも可変性があるので、自由に移動したり再編集することができます。POPUP的な売り場編集や季節感のあるVMD展開などに応じて今後変化させていくのもいいかなと思いますね。

――館内をゆっくりと歩きながら、一つ一つ丁寧に解説くださったお二人。一緒に一つの作品を作り上げるためのパートナーであり、その眼差しは大切なわが子を見る親のような愛を感じました。ありがとうございました。

お話聞いたのはこの方

齋藤正人さん(株式会社スマイルズ スペースデザインディレクター)

多摩美術大学卒。紆余曲折を経て1999年株式会社IDEEに再就職。インテリア設計部署にて幅広いクライアントのインテリアデザインを担当。2002年からフリーランスとして活動。2005年スターバックスコーヒージャパン設計部に入社し、西日本の設計デザイン統括の職務を従事。2016年スマイルズ入社。現在、クリエイティブ本部デザイン部にて店舗開発を統括。各事業ブランドの店舗デザインを中心にディレクションを行いながら、外部クライアントのデザインディレクションを精力的に行う。

青木崚さん(株式会社船場 チーフデザイナー)

東京工芸大学卒。2013年株式会社船場入社。国内外のショッピングセンター、駅施設、百貨店、大型専門店、オフィス、公園、街路空間といった都市計画から建築、内装のデザイン・設計を担当。運営者、利用者双方の目線を大切に、地域に根差した長く愛される場を目指した空間創造を行う。