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Change The Cycle Report
新しいサイクルをつくる、みんなのレポート

レポートMV

REPORT

2025.12.01

着なくなった服が、おいしい野菜に!土から考える服を作る・捨てるの未来。

「もう着なくなったこの服、どうしよう?」

衣替えのタイミングや、サイズが合わなくて着れなくなった時、新しい服を買ったものの服で溢れたクローゼットを見た時...。どうしても服を手放さなくてはいけない瞬間は、誰しもに訪れます。

日本では年間約50万トンもの衣類が廃棄されています。その多くは焼却や埋め立てによって処理され、大量のCO2を発生させながら地球環境への負荷を与え続けています。

国内では、衣類の新規供給量は計81.9万トン(2020年)とも言われており、そのうち、51万トン以上が廃棄されています。*
*出典:環境省 令和2年度 ファッションと環境に関する調査業務

“ファストファッション”の流行により、誰でも安価でトレンドアイテムを手に入れることが出来る一方で、流行が去り、飽きたら処分するという消費行動が生まれ、大量生産・大量消費が繰り返されているのが現状です。

そんな今、ここ北海道苫小牧市から衣類・繊維の新しい循環のかたちが始まっています。廃棄される衣類を「土に還す」という、これまでにない循環の仕組みです。

KISARAZU CONCEPT STORE(以下、KCS)にあるサーキュラーファームでもお世話になる2社に改めてお話を伺いました。

野菜が語る土壌改良材の効果

株式会社Landeo 取締役社長 前島宣秀さん(写真左)
株式会社Landeoでは産業廃棄物処理法に基づいて、衣類の適正処理が行われています。
CIRCULAR CARBON株式会社 代表取締役社長 松本大輔さん(写真右)
サーキュラーカーボン・ランデオと、土壌改良材を使った農産物の生産を担う農業生産法人・アグレオを含めた事業全体の統括とPR、企画を担われています。

お話を伺ったのは、サーキュラーカーボン株式会社の松本大輔さんと、株式会社ランデオの前島宣秀さんです。

今、企業でESG経営やCO2排出削減を求められる中、衣類・繊維の廃棄は大きな課題です。この現実を前に、従来とは全く異なるアプローチで解決策を見出したのが、今回取材したランデオとサーキュラーカーボンの手掛ける循環型事業です。

前島:
これは衣類から作られた土壌改良材です。黒い粒が炭化された衣類です。これを土に散布すると野菜が大きく、美味しく育つんですよ。

前島:
これから詳しい説明もしますが、畑もぜひ見てみてください。ここはうちでやってる畑です。この大きな野菜はユウガオです。かんぴょうはこのユウガオから作られているんですよ。他の野菜はほとんど収穫していますが、まだ残ってるのだと万願寺とうがらしなんか、そのまま食べられて今おいしいですよ。

どっしりと重いユウガオ

訪問前は大雨が降ったものの、野菜たちは元気そうな様子に一安心。

パリッと歯ごたえのある皮に、ほんのり甘みが広がる万願寺とうがらし。

松本:
若い農家さんも協力してくれて、うちの土壌改良材を部分的につかって青ネギやキャベツを育ててくれています。

事業に賛同して土壌改良材を散布していただいている近隣農家のかまど農園代表の松田蓮さん。

収穫を間近に控えた青ネギの葉が風に揺れ、ねぎ特有の爽やかな香りに包まれています

これから本格的に育っていくキャベツの苗が、葉を大きく開いた状態で植えられています

松本:
これまでの約半年間の実証実験では、様々な作物で効果を検証してきました。ブロッコリー、かぼちゃ、じゃがいも、スイカ、トマト、バジル、シソなど、多岐にわたる品目で実験を重ねています。

衣類から土に還るまで、その心臓部へ

――のびのびと育つ野菜を見ると、衣類から野菜へのサイクルにますます興味が湧きます!衣類をどのように処理しているのか、簡単に教えてください。

松本:
サーキュラーカーボンが採用するのは「炭化」という手法です。通常の焼却とは根本的に異なり、酸素を遮断した密閉状態で蒸し焼きにすることで、焼却に比べてCO2排出量を約80%も削減できます。

焼却では有害物質の発生だけでなく温室効果ガスの排出を招きます。しかし私たちのノウハウであれば、衣類を安全に炭化し、環境負荷を大幅に軽減することができます。炭化したものを加工し、こちらの土壌改良材として活用しています。

――どの野菜も立派に育っていましたね。実際に土壌改良材を使うことで、野菜にどのような影響がありますか?

松本:
収穫量は変わらないのですが、一つひとつのサイズが大きくなります。特にシソなどの葉物野菜では成長速度が2〜3割向上しました。視察に来られた近隣農家さんたちからは「葉の張りが良い」「根が良い」「虫がつきにくい」といった評価を得ています。

九州大学名誉教授によると、炭化した素材は小さな穴がたくさん空いているため、微生物の住処となって土壌が豊かになるといった効果があります。これはまさに土の「腸活」のような働きですね。土壌改良材は栄養素を直接与えるものではなく、土壌自体を元気にする役割を果たしています。

畑で比較するのはなかなか難しいので、観葉植物での実験だとより効果が分かりやすく現れます。パキラの比較実験では、土壌改良材を使用した方が葉の色が濃くなり、根の張りも良くなりました。ポトスでも同様の効果が確認されています。一般的なサイズの鉢には3〜4滴を投与するだけで、3ヶ月に1回程度の頻度で十分効果が持続しますよ。

――炭化がどのように行われるのか、実際に見てみたいです!

前島:
化学繊維に含まれる有害物質やマイクロファイバーを熱分解処理し、安全な炭化物へと変換していきます。これがなかなか難しいんですよ。化学物質をいかに飛ばすか、その微調整がうちのノウハウの核になります。

酸素を遮断した密閉状態。ほとんど外からは見えないが、青い炎が静かに揺れる

前島:
ここでは現在、3〜5トンの衣類を一度に処理できます。装置に入れる衣類のうち、最終的に炭として残るのは約10%。油を取り残りは水蒸気となって燃焼により失われるんですよ。

――高温と聞いてもっと暑い場所での見学になるかと思っていました。

前島:
もちろん、装置から発生する熱は無駄にしません。熱交換器で高温部から熱を水に移し温水化しています。将来的にはこの温水を活用してバナナやマンゴーなどの温室栽培も構想しています。

昼夜を問わず動き続ける装置が、衣類から土へ、そして野菜になる。この循環システムの心臓部となっています。

――よく見ると服が一部破れていますね。これは?

前島:
ボタンやファスナーなど土に還らない金属部分はあらかじめ取り除いているんですよ。その作業場も今ちょうど稼働していますから、案内しますね。ここでは近所の学生さんがボタンやファスナーなどの金属部分を丁寧に取り除いています。

様々なデザインの衣類があるため、機械化するのは難しいのだそう。

前島:
処理後に残った金属はマテリアルとして販売し、その他の部分は農業以外の用途の炭として転用されます。もともと産業廃棄物処理をやっていた経験が活かされています。すべてを資源として活用する知見がありますから。

北海道発、地域が広げる技術の未来

――野菜に限らず、北海道や苫小牧市だからこそ生まれた循環はありますか?

前島:
北海道の気候特性を活かした新たな展開も始まっています。2025年の冬から本格的に取り組みたいと構想しているのは、融雪剤としての活用です。

黒い炭の特性を活かし、畑に積もった雪に散布することで太陽光を吸収し、雪解けを促します。堆雪場の雪は5月ごろまで溶けませんから、やっぱり農業への影響は大きいんですよ。早く雪が解ければ、春の農作業を早くから始められて、溶けた後はそのまま土壌改良材として土に還ります。従来の融雪剤のような塩害の心配もありません。

――まさに地域密着型の発想ですね。他に、たとえばこの近隣地域の生活者との取り組みはありますか?

松本:
この取り組みは地域にも着実に根を張っています。地元苫小牧市のアイスホッケーチーム「レッドイーグルス北海道」とのパートナーシップでは、ファンから集めた衣類を土壌改良材に変える活動を展開しています。11月16日には「ランデオプレゼンツ」の冠試合が行われ、会場にて不要衣類回収を行いました。

苫小牧市からは一般廃棄物の処分許可を取得しました。一般廃棄物の処分許可は非常にハードルが高く、なかなか新規にはおろしてもらえません。しかし今回、市がこの取り組みを評価してくださり、業務許可をいただけました。これにより産業廃棄物以外の、家庭からの衣類も回収ができるようになり、より広域的な展開が実現しています。

また、トヨタアリーナ東京では、アリーナパートナーとして緑地率40%以上となるアリーナの緑化に活用されています。来場者やアルバルク東京のファンの方が持参した衣類が、アリーナの緑として戻っていく。これこそが循環の醍醐味です。

――生活者にとっても目に見える循環を感じ、学べる、嬉しい取り組みですね。千葉県にある、三井不動産が運営する「KISARAZU CONCEPT STORE」でも取り組みが始まっていると伺いました。

松本:
三井不動産と連携し、新たな作物栽培プロジェクトが始動予定です。KCSで回収した衣類から土壌改良材を作り、併設する畑で野菜が作れることをまずは目指したいですね。より多くの来場者の方に衣類の循環を体感してもらう場になれば嬉しいです。

北海道で培った技術と知見をさらに別の地域に展開することで、循環型社会の実現に向けた重要な一歩となりそうです。

これからのものづくりが変わる未来
循環が教えてくれること

――お二人の思い描く、衣類の循環の未来について教えてください。

松本:
まずは近い未来、炭で作った野菜が消費者の初期のハードルを越えて、当たり前に食べられる未来を目指したいですね。

長期的には、この循環型事業モデルが社会に広く普及することを目指しています。例えば、『廃棄のしやすさ』を考慮したファッションやデザインが常識になっていくかもしれませんね。

前島:
消費者も購入時に『最後は美味しい野菜になる』と廃棄後の循環まで想像しながらファッションを楽しむ。そんなマインドが広がれば、ものづくりをする人も売る人も、そして買う人も、社会全体の意識が変わっていくはずです。

インタビューを終えて、KCSチームが感じたこと

手放した服が土に還り、大地を育む。そしておいしい野菜になって自分たちの生活に戻ってくる。みなさんが育てられたスイカを頬張りながら、すばらしい循環の未来に、改めてワクワクさせられました。その一口に、これまでの技術の蓄積や、実践の数々が詰まっているようで、おいしさが心に染みました。取材後に野菜の収穫をさせてもらい、ずっしりと重い大根やユウガオを抱えながら、畑の向こうに、ファッションをとりまく未来が動いている、今でもその感触を覚えています。

そして「時間が経っても愛され続ける、本当に良いものづくりを応援したい」という二人の想いがやはり印象深く残っています。大量生産・大量消費の時代から、循環型社会への転換点で、私たちは何を選択すべきなのでしょうか。その答えが、苫小牧の大地で、畑で、静かに育っています。
KCSでは洋服の販売だけではなく、お客様が衣類を手放すときの選択肢の一つとして回収BOXを設置しています。インタビューの中でもお応えいただきましたが、ここで回収したものが新たな技術により土壌改良材へと生まれ変わり、野菜や植物を生き生きと成長させる循環を生み出せるということをぜひお客様にも体感していただけるようなワークショップなども実現できたらと考えています。そういうサイクルを知ることによって、生活者一人ひとりの「洋服の手放し方」の意識が少しでもアップデートされればと思っています。

会議室に到着したら、敷地内の畑で採れたスイカをご用意して歓迎してくださるCIRCULAR CARBON社の皆さま。

後日談 ~KCSのサーキュラーファームがリスタート!~

11月半ばに、北海道苫小牧から素敵なお便りが届きました。私たちも視察させていただいたかまど農園にてすくすくと育った青ネギを収穫している様子の写真たちです。

土壌改良材を散布した土で育った青ネギたちを、CIRCULAR CARBON社の松本さん自ら収穫のお手伝い。

さらに、KCSでも着々とCIRCULAR CARBON社との取り組みが進行中です。KCS内のFACTORY LABに隣接するサーキュラーファームが本格始動。
まずは土の状態を検査するところからスタート。そして土を耕し、土壌改良材を散布。

土壌改良材を散布し土づくりをした畑に、チューリップの球根や白ネギの苗、菜の花、ブルーベリーの苗木などを作付けしていただきました。

春にはきっと畑にさまざまな植物や作物の花が咲いてくれるかなと思うと、今からとても楽しみです。ご来店される際には、ぜひサーキュラーファームも覗いてみてください。

KCSのサーキュラーファームにも自ら足を運び作業してくださる松本さん。

KCSの店内には、不要になった洋服の回収BOXも設置しています。皆さまから回収した洋服たちの一部は、ランデオ社・CIRCULAR CARBON社にお渡しし、土壌改良材にしていただきます。

ファッションを楽しんだ後の洋服の手放し方、その行く末を想像できる循環を、ここKCSでも実現していければと思います。クローゼットに眠る洋服がある方は、ぜひKCSの回収BOXにお持ちくださいね。

KCSのウラガワレポート公開中!