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Change The Cycle Report
新しいサイクルをつくる、みんなのレポート

KAJI FACTORY PARKの建物と公園

REPORT

2026.10.28

KAJIグループがひらく、繊維産業の未来。「知られること」から始まる、産地を未来へつなぐ挑戦

アパレル業界を支える重要な産業、繊維産業。日本の繊維の産地といえば、どこを思い浮かべるでしょうか? 実は、国内の合成繊維の約9割を生産しているのが、富山県・石川県・福井県の北陸3県なんです。知らなかったという方も多いのではないでしょうか。

繊維産業は今、縮小の一途をたどっています。まちの工場の多くが下請けとして、自分たちが何をつくっているのかを名乗れないまま、潰れてしまう。そんな現実があります。

そんな構造に正面から向き合い、繊維産業全体を盛り上げようとしているのが、石川県に拠点を構えるKAJI GROUPです。1934年創業の同社は、2025年4月、かほく市に産業観光施設「KAJI FACTORY PARK(カジファクトリーパーク)」をオープンしました。

「日本の繊維を元気にする」。こんなミッションを掲げる同グループは「サステナビリティ」をどう捉え、どんな取り組みを行ってきたのでしょうか。KAJI FACTORY PARKプロジェクト長の砂山徹也さんに話を伺いました。

KAJI FACTORY PARKプロジェクト長の砂山徹也さん

砂山 徹也(すなやま・てつや)
カジレーネ株式会社 KAJI FACTORY PARK プロジェクト長 兼 製品ブランド事業部 事業部長。2007年 金沢大学工学部卒業後、セレクトショップに勤務。2012年 KAJI GROUP に入社し2014年には自社ブランド「TO&FRO」を立ち上げ。2025年にはかほく市に新拠点「KAJI FACTORY PARK」を創設し、プロジェクト長を務める。

糸も、生地も、機械も。世界でも珍しい一貫体制

ーーまず、KAJIグループがどんな会社なのか教えてください。

砂山:
当グループは、1934年に繊維の機械をつくる「梶製作所」という会社から始まりました。いまは糸を加工する「カジナイロン」、織物を織る「カジレーネ」、ニットを編む「カジニット」、そして機械の「梶製作所」という会社と、海外に2社を構えるグループ会社です。

糸と生地を作っている会社はほかにもありますが、機械まで自社でつくっている会社は世界でもかなり珍しいのではないでしょうか。

糸巻きが並ぶエントランスの展示

ーー具体的に、KAJIグループが持つ特徴的な技術を教えてください。

砂山:
世界で一番薄くて軽いナイロン織物を作ることができます。いま市場に出ている最も細いナイロンの糸を加工してつくっています。糸の太さは髪の毛の3分の1ほど。その細さに伸縮性やかさ高性(繊維などの「どれくらい大きく膨らむか(体積の大きさ)」を表す性質のこと)を与えるのが、カジナイロンの糸加工の技術です。この糸は、切ろうと思えばすぐ切れてしまうくらい弱い。それを切らずに加工し、カジレーネの技術で、超高密度で織るから、生地としては強くなる。この生地は、世界中のアウトドアブランドやスポーツメーカーでも使っていただいています。

ーーBtoBで糸や生地を販売するほかに、TO&FRO、K3B、KAJIFといった自社ブランドも運営されている背景は?

砂山:
我々は「日本の繊維を元気にする」というミッションを掲げています。日本では北陸3県だけで合成繊維の9割をつくっていて、世界的にもトップレベルの産地ですが、地元の人も含め、あまりそれが知られていません。なぜ知られていないのかというと、下請けとして生産していることがほとんどで、メーカー側から発信ができないから。認知度が低ければ当然人も増えないし、下請けだけでは工賃しか得られず利益も上がらない。産業が縮小していくばかりです。そんな中で、繊維産業を盛り上げるためにも、自社の生地や自社の生地を使った製品を販売する必要があると考え、これらのブランドを始めました。

自社ブランドの製品が並ぶショップ
TO&FROのカラフルなバッグ

ーー実際、繊維業界はいま、どんな状況にあるのでしょうか?

砂山:
日本は製造業全般が人手不足ですが、その中でも繊維業界って本当に人が来ないんですよ。約20年前と比較して、日本の繊維業界の従事者は半分くらいになってしまいました。 廃業する事業者も多く、石川県で50年前には3,800社あった機屋(はたや)は、今では200社を切っています。平均給与も、他の製造業と比較して2割ほど少ない。危機的な状況にあります。

ーー自社ブランドの運営は、そんな繊維産業自体を、サステナブルに継続していくための取り組みということですね。

砂山:
そうです。それに、何が1番大事かというと、工場がずっと稼働していることなんです。それによって職人たちにも給料を払える。そのためにも、自社で需要を生み出すことも必要なんです。

繊維産業について語る砂山さん

稼働率3割のコロナ禍から生まれた新拠点

ーー2025年には、新工場「KAJI FACTORY PARK」をオープンされました。かなり大規模な施設ですが、新設の背景は?

砂山:
もともと社長の梶は長らく新工場の設立を考えていたのですが、産業観光施設として建てることを決めたのは2020年、コロナ禍です。当社の生地の出荷先は欧米が多く、ロックダウンが始まると、注文が来なくなりました。あの夏は3割の稼働率でした。社長はなんとか注文をもらえないかと駆け回りましたが、みんなが売るものを失っている時期ですから、当然発注は来ない。それならば自分たちでやれることをやろう!と、そこからプロジェクトが動き出し、私もチームに加わりました。

ーー工場見学に加えて、レストラン、ショップ、毎日開催されるワークショップなど「開かれた施設」ですね。

砂山:
そうなんです。繊維業界って本当に人気がないと自覚しているので、「無料で工場見学ができますよ」とアピールしても、多分誰もお客さんが来ないと思っていたんです。とにかく人に来てもらうためにコンテンツを作ろうという意図で、公園や地域の食材を使ったレストラン、自社ブランドに加えて北陸の手仕事などを紹介するショップを作りました。ワークショップも毎日開催しています。

インタビューの様子

ーー「KAJIFes」のような大きなイベントも開催されていますよね。

砂山:
「KAJIFes」は、「KAJI FACTORY PARK」で去年から始めたイベントで、年3回のペースで開催しています。キッチンカーがずらっと並び、食を楽しんでいただくこともできますし、ダンスステージやワークショップもあります。

これまでに5回開催し、だんだんと来場者数が増えてきました。最初は近隣の方がほとんどでしたが、最近は県外からいらっしゃる方もいます。2026年8月に開催した回では、2日間で7,000人が来場し、中には京都や名古屋から来てくださった方もいらっしゃいました。

KAJI Fesの会場と来場者の様子

KAJI Fesの様子

ーーこれらのコンテンツや設備は、どんな効果をもたらしていますか?

砂山:
「KAJI FACTORY PARK」のオープン直後から、近所のおばちゃんたちが「レストランができたらしいから食べに来たわ」と来てくださることがよくありました。当社のことはよく知らず、来てから「ここ繊維の会社らしいわね」みたいな順番で知っていただくこともあり、ある意味狙い通りです。

砂山さんと編集チームの対話

海外ブランドの方が視察に来てくださることもあります。この場所に来たことで、取引の決定率が変わったと感じる場面は確かにありますね。

ただ、最も効果を感じているのはリクルートです。先ほどお話しした通り、繊維産業は人材不足の業界です。これまでは毎年多額の投資をして、ようやく10人くらいの新卒が入社してくれる状況でした。けれど、3年半前はグループ全体で社員数約330人だったのが、今では約430人になっています。若い層も増え、移住して就職してくれる人も出てきました。

かほく市から、日本の繊維産業を広めていく

ーー改めて、御社が考える「サステナビリティ」について伺えますか。ここまでお話を聞いて、一般的に思い浮かべがちな環境配慮だけでなく、産業自体のサステナビリティに向き合っている会社だと感じました。

砂山:
もちろん、自然環境への配慮は当然やっています。サステナブルな製造に力を入れていて、これまで廃棄物だった糸くずや残布も積極的に使用しています。また、工場自体の環境負荷をできるだけ下げるための工夫も行っています。例えば、施設の屋根にはソーラーパネルを設置しています。また、生地を織る工程では、水の力で緯糸(よこいと)を通すため多くの水を使用します。その水を循環・再利用することで環境負荷の軽減を図っています。

ただ、おっしゃる通り、我々が考える「サステナビリティ」には、自然環境の話だけではなく、地域や産業のことも含まれます。地域の観点では、この工場があるかほく市のGDPを上げたい。海外のデザイナーたちからすると、自然環境に配慮していることなんて、もう当たり前のことです。それよりも、彼らが評価するのは、海外拠点を設けるのが当たり前の時代に、我々がこの土地に大きな投資をしたこと。そして地域に開いた公園をつくっていること。「ここでやっていくんだ」という覚悟が好きだと言ってくれることがよくあります。

そして、産業を継続するという観点では、これまでお話ししてきたように、まず人を集めること。そして、その人たちに十分な対価をお支払いすること。当社では給与を毎年全員上げていくと決めて、実行しています。年間休日も毎年数日ずつ増やしています。労務費は当然上がりますが、その分、価値の高い製品を作る。繊維業界はどこも買い叩かれてきましたが、それを壊して次の世代が入ってくるようにするのも、サステナブルに産業を続けていくために大切なことだと思います。

KAJI GROUPのロゴが入ったシャツ

ーー最後に、KAJIグループの今後の展望を教えてください。

砂山:
ここ、かほく市という拠点は変えずに、北陸の繊維産業の価値をより広く伝えていきたいですね。そして、海外市場にももっと売っていかなければならない。ゴールは「日本の繊維を元気にする」ことです。ここに向かって、今後もコツコツと良いものを作り続けていきます。

潜入!写真でめぐる KAJI FACTORY PARK

KAJI FACTORY PARKでは、来場者が自由に工場見学をすることができます。今回、私たちもインタビューの後、砂山さんに解説いただきながら、工場見学をさせていただきました。原糸の状態から布に織られていく様子まで、ポップな展示とともに見学できるので、楽しみながら生地作りの裏側を知れる時間となりました。

さらに、公園やショップ、レストランなど、KAJI FACTORY PARKの見どころは盛りだくさん。休日のお出かけ先としてもおすすめしたい施設です。ここでは、見学の様子を一部ご紹介します。

緑に囲まれたKAJI FACTORY PARKの入口

緑に囲まれたKAJI FACTORY PARK。至るところに書かれた「79」のロゴは金の原子番号を表現。金の高価な価値になぞらえて、唯一無二の生地を生み出すという覚悟の表れです。

エントランスの白いパブリックアート

エントランスの階段の真ん中に立つ白いオブジェは、建築家で陶芸家の奈良祐希さんによるパブリックアート。炭素繊維「カーボンワイヤー」でつくられた331本の棒は、プロジェクト開始時の従業員数と同じ数とのこと。

KAJI FACTORY PARKの公園

工場の目の前にはプラントハンター・西畠清順氏監修による大きな公園が2つ。

公園に植えられたオリーブの木

樹齢約1000年の大きなオリーブの木も。

公園に設置された白いオリジナル遊具

白い大きな遊具は、福井に本社を構えるジャクエツさんに依頼して制作したオリジナル遊具。

春には近隣住民のみなさんがお花見を楽しめるようにと、2つの公園にはトータル79本の桜の木が植えてあるそう。
それではさっそく施設の中に潜入していきます!
入場してすぐに目に飛び込んでくる大量の糸巻き。

エントランスに並ぶ大量の糸巻き
糸巻きを間近で見られる展示

実際に使用されているものと同じ機械を展示しているのだとか。髪の毛よりも細い糸はよく近づかないと見えません。

糸加工の機械を使った展示
細い糸が張り巡らされた展示

2階に上がって、いざ、工場見学へ!

生地の端材で作られたリストバンド

入場者向けに配られるリストバンドは、生地の端材をつかって地元の障害者就労支援施設の方々が作ったもの。

工場見学スペースへの入口
KAJIグループの生地を使ったアイテムが並ぶ廊下

廊下には、KAJIグループの生地を使ったアイテムがずらりと並びます。

砂山さんによる生地の解説
展示された生地に触れる様子

展示されている生地に実際に触れながら、その特徴について砂山さんにご説明いただきました。

加工された糸の特徴を学ぶ様子
原糸と仮撚り糸の違いを触って確かめる様子

原糸を加工し、仮撚り糸へ。実際に触るとその違いは歴然。高い加工技術により軽量でありながら機能性の高い糸へ。

重い糸巻きの設置を体験する展示

工場内にずらりと設置されているこの巻いた糸は、重いものだと一つ6kgほど。これを人の手で設置していくという大変な作業にチャレンジ。

身体を使って織りの仕組みを学ぶ展示

糸から布へ、どのように生地が織られているのか体感できる展示。実際に触ったり、身体を使って体験しながら学べます。

2階の見学スペースから見下ろす工場

2階の見学スペースからは、24時間稼働する織機を見下ろせます。目に見えない細さの糸が高速で行き来する様子は圧巻。

工場に併設されたショップ

工場見学の後は、併設のショップでお買い物。

TO&FROとCLOUDYのコラボレーション商品

TO&FROは、アフリカン柄で人気のブランド「CLOUDY」とコラボ商品を発売中です。

地元の食材を楽しめるレストラン

お腹が空いたらレストランで一休み。地元の食材を使ったメニューがいろいろ。

彩り豊かなランチメニュー

食べ応え抜群のランチメニュー。時期ごとに異なるメニューも登場するそうです。

毎日開催されているワークショップにも参加させてもらいました。この日は端材を使ったストラップ作りに挑戦。

ワークショップで使う色とりどりの端材
端材でストラップを作る手元
ワークショップを楽しむ編集チーム

大人も夢中になれるワークショップ。KCSでも何かご一緒できたらいいですね~と話しながら、時間も忘れて楽しく作業に集中する編集チームでした。

取材を終えて

「知られない産地は、残らない」

KAJI FACTORY PARKは、単なる「工場見学施設」ではなく、普段は意識されることの少ない繊維産業の営みや技術、その価値を社会にひらくための場所でした。

世界トップレベルの技術を持ちながら、その価値が十分に知られているとは言い難い北陸の繊維産地。KAJI GROUPは、自社ブランドを立ち上げ、工場や公園をひらき、イベントを開催することで、人々と産業との距離を縮めようとしています。70億円もの投資をしてこの施設をつくった背景にあったのは、「日本の繊維を元気にする」というミッションを本気で実現しようとする強い意志でした。

サステナビリティとは、環境負荷を減らすことだけではなく、「続いていく仕組み」をつくること。地域に人が集まり、産業に関わる人が増え、次の世代へ技術が受け継がれていく。その循環の入口を、私たちも確かに見た気がします。

KCSという場が担える役割の一つは、こうした作り手の挑戦や思いを伝えていくこと。「知ること」から始まる新たな循環を生み出していきたいと思います。

KAJI FACTORY PARKとの出会いは、産業の未来をつくるのは優れた技術だけではなく、その価値を社会に届けようとする人々の意志なのだと改めて感じさせてくれる時間となりました。

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