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Change The Cycle Report
新しいサイクルをつくる、みんなのレポート

レポートMV

REPORT

2024.03.07

“繊維製品の廃棄率0.0%”の実現に向けた
ユナイテッドアローズの新しいサイクルづくり

「豊かさ・上質感」をテーマに、国内外からセレクトしたブランドやオリジナルアイテムなど、幅広いジャンルを取り扱うセレクトショップを展開するユナイテッドアローズ(以下、UA)。同社では、2020年に企業としてのサステナビリティの指針を打ち出し、それを実現するための取り組みを続けてきました。

今回は、UAが企業の内外や顧客目線で考え、具体性を持って実践している「繊維製品の廃棄率0.0%」を目指す活動、そしてKISARAZU CONCEPT STORE(以下、KCS)に参画した背景について、同社 経営戦略本部サステナビリティ推進部の玉井菜緒さん、アウトレット本部催事チームの鈴木健司さんに聞きました。

2030年までに繊維製品の廃棄率を0.0%へ

――UAでは、KCSに参画される以前から長きにわたって、自社のサステナビリティ活動に注力されています。具体的には、これまでどのようなことを行われてきたのでしょうか。

玉井菜緒さん(以下、玉井)
UAとして、2020年にサステナブル提言として16項目のマテリアリティ(重要な課題)を挙げて取り組みを始めました。ただ、さまざまな目指すべき指針を定めたものの、携わる分野が多岐にわたることで、その一つひとつを力強く推し進めていくことがなかなか大変でした。

また、アパレル業界に限らず、企業全体でサスティビリティ活動を続けていくためには、企業のトップが提言をするだけでなく、そこで働く人々がその理念を理解することが重要です。

そこで、2020~2022年の中期経営計画のタイミングで、改めて未来のUAのあるべき姿を思い描きながら、サプライチェーンや資源、コミュニティ、人材、ガバナンスといった5つの大きなテーマを掲げ、そこに16項目の課題を落とし込んでいったことで、社内にその理念が浸透していき、UA全体でのサステナビリティ活動が活発化していきました。

同時に、これらの取り組みは、自分たちだけでなく関係のある他の企業や人々に理解してもらうことも大切であるため、改めて2022年8月にUAのサステナビリティ活動を「SARROWS(サローズ)」と名付け、対外的に分かりやすく発信していくことを始めました。

ユナイテッドアローズ 経営戦略本部サステナビリティ推進部の玉井菜緒さん

――SARROWSではどのようなことに取り組み、発信をしているのでしょうか。

玉井
2020年時からマテリアリティは変わっていませんが、企業視点ではなく関係企業やお客様の視点に立って、「Circularity 循環するファッション」「Carbon Neutrality カーボンニュートラルな世界へ」「Humanity 健やかに働く、暮らす」という3つの柱を設けて、活動を展開しています。

そして、この3つの柱それぞれに目標を設定しています。例えば、Circularityにおいては、まず商品の廃棄率を下げることや環境配慮商品の割合を高めていくこと、Carbon Neutralityでは、CO²排出量の削減や再生可能エネルギーの利用割合を増やすこと、Humanityではユナイテッドアローズで働く人や関係のある皆の権利を守り、働きやすい環境をつくっていくことを目指しています。

ユナイテッドアローズが発行するサステナビリティ活動をまとめた冊子。指針のほか、年毎に繊維商品廃棄率といった取り組みの結果を示すデータも公開している

ユナイテッドアローズが発行するサステナビリティ活動をまとめた冊子。
指針のほか、年毎に繊維商品廃棄率といった取り組みの結果を示すデータも公開している

このなかでもKCSに最も関係があるのはCircularityの取り組みです。SARROWSでは、キズがつくなどして販売できなくなった商品の廃棄率を「繊維製品」と「全体の商品」の2つに分けて設定しています。そして、2030年までに繊維製品の廃棄率を0.0%に、全体の商品の廃棄率を0.1%にすること目指しています。

実際、2021年に1.0%であった全体の商品の廃棄率は2022年に0.4%になり、繊維製品の廃棄率は0.3%になっています。この商品廃棄率には、焼却やサーマルリカバリー、埋め立てされるものも含めていますが、新しいリサイクル方法の導入や、環境配慮商品の割合を増やすことによって、目標を達成できると感じています。

鈴木健司さん(以下、鈴木)
定価販売される商品、その後にセールで売り出される商品、そしてアウトレットへと商品が動いていくなかで、アウトレットまで来てもお客様に巡り会えない商品は存在します。

この商品をどうにかしてお客様の手に取ってもらい、廃棄率を減らすことにつながればという思いを持って、様々な施策を行ってきました。例えば、スマイルズさんが実施している「PASS THE BATON MARKET」への出店もその一環です。この商品廃棄の問題をどうにかしたいという思いを持つ社員はたくさんいて、SARROWSの立ち上げの話を最初に聞いた時も自然に受け入れられたのを覚えています。

株式会社スマイルズが主催する、企業の倉庫に眠る規格外品に光を当てる蚤の市「PASS THE BATON MARKET」の様子。

また、KCSの計画を初めて聞いた時も、とても共感を覚え、同時に「やられた!」と感嘆するような思いも持ちました。これまでもSARROWSの取り組みのなかで、廃棄されてしまう商品やサンプル品をクローズドで販売する試みも実施してきましたが、KCSはまた違った形でのアプローチあり、ただのオフプライスストアではなく、エンターテインメント性を持ったサステナビリティ活動の一つとして、ぜひ参画したいと思いました。

ユナイテッドアローズ アウトレット本部催事チームの鈴木健司さん

「もったいない」の視点が共感を呼び起こす

――SARROWSのような活動は、劇的に進展していくものではなく、地道な取り組みが大切だと思います。その視点を周りに浸透させるために大事にしていることはありますか。

玉井
SARROWSを続けるなかで感じるのが、一企業の視点ではなく、周りの企業やお客様の視点で共感してもらえるような情報を発信し続けていくことの大切さです。

高い目標を達成するためには、取引先の企業の協力、取り扱う商品に対してのお客様の理解など、「一緒にやってみようかな」と思えるような共感を呼び起こし、広めていくことが重要です。それは社内にも言えることで、コミュニケーションを繰り返し、UAらしいサステナビリティ活動とは何かを考える土壌をつくることに力を入れています。

鈴木
お客様の視点という意味では、そのお客様側の意識が変化してきたことも大きいです。商売を長い間続けていくと、お客様の期待に応えようと、提供する商品に対するハードルがおのずと上がっていき、「キズや汚れがあると出せない」「新作でないと喜んでもらえないかもしれない」など、企業側が先回りして商品を提供しなくなってしまうこともある。

しかし、時代と共にお客様の心理も変化し、一つの商品を長く使うことの価値が見直され、少しキズがついていても気にしない心持ちなど、買う側の受け皿が広がってきたのを感じます。例えば、アウトドア商品は、一度使えばどこかにキズや凹みがつくのは当たり前のことで、それに対して「そうだよね」と共感してくれるお客様はたくさんいます。

昔はそういった話題を出すこともタブーのような風潮がありました。廃棄をするしかなかった商品に対して、「もったいない」という視点を持って、UAの取り組みに共感していただけるようになったことで、廃棄率を抑えるための様々なチャレンジがしやすくなっています。実際に、お客様の意識の変化を汲み取って、提供する商品の基準を、意識的に変えようとしている段階です。

また、日本にはもともと「もったいない」という考え方のもと、古くから一つの物を直して使い続けてきた文化があります。今、このリペアにも力を入れようとしています。以前は、手間や時間、コストの問題からリペアは手掛けていなかったのですが、商品廃棄の問題だけでなく、良い物はお直しすれば長く使えるということを発信していくことも意識しています。

商品廃棄率低減への取り組みは企業の“得”

――実際にKCSをご覧になってどのようなことを感じられたでしょうか。

鈴木
ただのオフプライスストアではない、商品の新しい魅力に出会い、サステナビリティの視点を体験する場が広がっていると感じました。

サステナビリティとは何かを考えるきっかけとなるラボはもちろん、商品が並ぶスペース、フィッティングなどの空間も魅力的で、服選びを楽しみながら、いつの間にか自分も「新たな服のサイクル」に踏み込んでいく仕組みが面白い。堅苦しくなりがちな企業のサステナビリティ活動を、お客様の視点で広げていく一歩として大きいものだと思います。

KCSに並ぶ予定のUA在庫品の一部。魅力的な商品ばかりだが既存の流通システムではどうしても在庫が発生してしまう

――KCSは、「在庫品を安く売る」という側面だけを見ると、企業によっては「自社のブランドを毀損してしまうのではないか」という不安を感じる可能性もあります。そのなかでUAがいち早く参加を決断されたのは、どのような考えがあったのでしょうか。

玉井
単純に在庫品を安く売るだけの場所であれば参加はしなかったでしょう。自社で、長い間どうすれば商品の廃棄率を抑えることができるか試行錯誤するなかで、繰り返しになりますが、商品を手に取るお客様の視点に立つことの重要性を感じ、KCSがそれを実現する場所を目指していると共感できたからです。

その他にも、UAで以前に「もったいない」をテーマに、キズのついた商品をお値下げして販売する企画を実施した際、お客様から想定していた以上の好意的な反応をいただいたという経験も背景にありました。

――「在庫品を安く売る」ではなく、「商品一つひとつを大切にお客様に届ける」という視点がユーザーの共感を得ることで、ブランドや企業のファンを増やすことにつながるのですね。

鈴木
もちろん、企業として具体的に得することがあるからこそ推し進めているのも事実です。廃棄する商品が減れば、廃棄のためのコストがなくなる。売り上げを重視して、無駄になるとわかっていて大量に商品を仕入れることをしなくてもよい。

そして、廃棄や仕入れを見直すことで、生産や流通まですべての工程を適正化できる。これは、SARROWSで明記しているように、実際に数字に表れています。出来上がったシステムを見直すことは面倒で大変なことですが、早く踏み出せば、それだけメリットとなることが多いと実感しています。

玉井
特に商品廃棄の課題は、多くのステークホルダーも注目している点で、それを解決していくことは、社会的な企業の価値を高めることにもつながります。また、数値化しやすい部分でもあるので、サステナビリティ活動のモチベーションにもなるのではないでしょうか。

新しいサステナビリティの視点に出会う場所

――今回、UAの取り組みや企業としての視点をお聞きして、まさにKCSが掲げる「みんなで新しいサイクルをつくる店」を実践されているのを感じました。最後に、今後KCSで取り組みたいこと、または期待をしていることを教えてください。

玉井
UAが商品廃棄の低減を目指しているものの中には、革の鞄や靴をはじめとするリサイクルがしにくい商品も含まれています。これらの素材をリユース、リサイクルできる技術を持ったパートナー探しは、UAとして常に続けているのですが、KCSが、商品とお客様の出会いだけでなく、企業が新しい処理技術やリサイクルのアイデアと出会える場にもなってほしいです。

鈴木
今は商品をご提供するのがメインになっていますが、一緒になって企画も考えたいですね。そこでは、例えば、先述のリペア商品を集めてみるといったこともできるかもしれない。また、ご提供する商品のラインナップやピックアップする仕組みも改めて見直しを図っています。売れ残っている商品にも本当に素敵なものがあり、それらを埋もれたままにせず、KCSでお客様と出会える機会が生まれてほしいです。

廃棄されてしまう商品に対して「もったいない」という気持ちは、UAに限らず、ものづくりや、ものを売る企業の人々はきっと持っているだと思います。KCSが、その思いを解決するきっかけをつくり、多くの企業や人々それぞれが、自分たちらしいサステナビリティの在り方に気づく場所になるといいですね。

お話聞いたのはこの方

玉井 菜緒さん(株式会社ユナイテッドアローズ 経営戦略本部 サステナビリティ推進部部長)

1999年、株式会社ユナイテッドアローズに入社。情報システム部門にてコミュニケーションツールの企画・運用を担当後、2004年より同社の社会・環境活動の推進に従事する。同分野に携わって20年目。

鈴木 健司さん(株式会社ユナイテッドアローズ アウトレット本部 催事チーム )

2006年、株式会社ユナイテッドアローズに入社。ユナイテッドアローズ名古屋店勤務を経て、2011年に本社部門へ異動。
CSRやサステナビリティといったワードが定着するよりも早い時期から環境配慮や商品廃棄に強い関心を持ち、現在は在庫管理と在庫消化を通じて廃棄削減のための取り組みに従事している。