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Change The Cycle Report
新しいサイクルをつくる、みんなのレポート

レポートMV

REPORT

2024.06.26

帽子への情熱がつなぐ、石田製帽のものづくりのバトン

岡山を拠点に帽子の製造・販売を手掛ける株式会社石田製帽。2024年7月3日から、KCSでPOPUPイベントを開催するにあたって、あらためて石田製帽が多くの人に愛されている理由や、その帽子づくりへの思いを、同社代表である石田勝士さんに聞きました。そこにはものづくりに実直に向き合う姿勢から、自然にサスティナブルなサイクルが生まれている様子が伺えます。

「国産である」というストーリーの前に、まずは品質

——石田製帽は、長く帽子の製造と卸を続けてきましたが、約20年前から自社ブランドを立ち上げて小売を始めました。今では全国にファンがいますが、自社ブランドをスタートしたきっかけを教えてください。

当社は創業が1897年で、120年以上にわたって帽子づくりに携わってきました。長く農作業用の麦わら帽子の製造を手掛けていましたが、世の中の変化に合わせて1980年代からファッションとしての帽子を展開し始めました。特に、人気のアイテムである麦わら帽子は、とても細い麦を使って縫製する職人の高い技術があって生み出されるもので、帽子づくりの長い歴史の中で培ってきた経験が活かされています。

当社の工場でつくられる帽子はおかげさまで業界のみなさまに評価いただき、当初は問屋への卸売りやOEMを中心に取り組んでいました。

一方で、時代の流れと共に帽子の製造業界では、海外からの輸入品が多くなり、国内の小規模な工場は少しずつ廃業するところが増えてきました。それは価格面での競争力の問題だけではなく、今や輸入品であっても、国内の老舗のものより品質の良い帽子がたくさんあり、単純に国産だから良いという時代ではなくなっています。

そのなかで、あらためて自分たちのつくる帽子の価値を見つめなおし、その魅力を多くの人に届けたいという思いから、自社ブランドを立ち上げました。ものづくりの現場において、「メイドインジャパン」という言葉をよく耳にしますが、その言葉先行して、つくられるものの本当の価値が見逃されてしまっている瞬間もあるように感じます。

自分たちのつくる帽子の良さが何であるか見つめなおしていくと、それは実際にかぶった時に感じるかぶり心地や、触れてみて気づく仕立ての良さなど、使う人のことも想像しながらつくった帽子であること、その作り手とお客さんのつながりや距離感にも価値があるのではないかと感じます。

麦わらを編んだテープ状のひもをミシンで縫い合わせていくことで見る見るうちに帽子の形になっていく職人技

もちろん、職人の高い技術、デザインや素材へのこだわりがあることは前提で、ストーリーが品質を置き去りにしない、しっかりしたものをつくりたいという思いが、使う人にも伝わって、多くのお客様に愛用いただいているのだと思います。小売に力を入れ始めてから、実際にお客様に直接お会いする場面が増え、そこであらためて自分たちのつくる帽子の魅力にも気づかされています。

「帽子への愛」が伝播してサイクルが
生まれる

——石田製帽では、閉鎖する工場から素材や機械を引き取っているそうですね。その取り組みにはどのような意図があるのでしょうか。

帽子製造の業界が移り変わる中で、帽子に使われる素材にもつくられなくなるものがあり、工場にはそれらのデッドストックが眠っているケースが少なくありません。それらは、帽子をつくる職人としてはとても魅力的なものです。そもそも、私自身が“素材フェチ”のようなところがあって、時間と共に味わいが出てくる素材や、人によっては目に留まらないようなものに価値を見出して、帽子に仕立てることにも喜びを感じます。麦わら帽子も、農作業をする時にかぶるものと思う人もいれば、形や質感がかわいいと思って使う人もいて、一つひとつの素材を大事にして帽子をつくりたいという思いをいつも持っています。また、特別な素材でなくとも、ものづくりに携わる人間として、材料や製造時に出る端材、在庫品が廃棄されることに、抵抗感や罪悪感があります。これは、帽子製造に限らず、ファッションに携わる多くの人が感じていることではないでしょうか。

また、帽子工場の機材を引き取ることもあります。麦わら帽子は、木型を使って形づくっていくのですが、木型は工場やメーカーごとのノウハウやこだわりが詰まっているもので、それを引き継ぐことは、帽子づくりに携わってきた人々の思いを受け取って、次のものづくりへつないでいくことだとも感じています。

——競合他社からそれらの素材を受け継ぐ関係性が生まれているのも興味深いです。

当社が帽子づくりを長く続けてきた歴史や信頼もあると思います。また、代表である私も売り場で直接お客様に商品を説明して、その魅力を伝えている姿に「帽子への愛」を感じてもらっているように思います。帽子づくりを一生懸命やってきたので、ストーリーづくりやブランディングが下手で、直接お客様とコミュニケーションをとるということしかできない結果なのですが、この売り方を長く続けていると、使ってもらう人の声を聞くことができ、自分たちの商品の良さを伝えるのに合っていると実感します。全国に出張して、たくさんのお客様に出会っていくと、帽子の魅力を知ってもらうための旅をしているような感覚もありますね。

30年前の麦わら帽子を修理する
お客様がいます

——まさに、帽子づくりにおける“パス・ザ・バトン”が生まれていて、普段のものづくりから自然にサスティナブルなサイクルが循環しているように感じます。

商品を多くの方に買ってもらうことは大事ですが、誰かと競って、誰かに負けたくないということよりも、帽子づくりに携わる人間として、自分たちがどこまでやりたいことを追求できるかという思いを大切にしていて、その結果、お客様に喜んでもらえたらいいなと考えています。

私たちの取り組みにサスティナブルな要素があると言ってもらえるのは、商売優先ではない昔ながらのものづくりの視点があるからではないでしょうか。昔は帽子づくりに必要な素材がとても貴重で、無駄にしないように工夫していたり、一つの商品を修理して長く使ったりというのが当たり前だった。出張先の売り場で、30年前に購入した当社の麦わら帽子を持ってきて、リボン付けの修理を依頼してくれた方がいて、そんな風に、愛着を持って大事にしてもらえる帽子をつくることの喜びをあらためて感じました。

今回、KCSに出品する商品は、約30年にわたって愛されているロングセラーの商品の他、染物の職人など外部の方とコラボレーションしたものや、製造時に出た端材を使った一点物、そして、他の工場から引き継いだビンテージ素材を使ったものなど、さまざまな帽子をご用意する予定です。ぜひ、一つひとつの商品を手に取って、その魅力を感じていただき、私たちの帽子づくりへの思いが、自然と伝わっていってくれたら嬉しいです。

お話聞いたのはこの方

石田勝士さん
株式会社石田製帽 代表取締役社長

高校卒業後、大阪の電機メーカーで約10年経理マンとして勤務。退職後、石田製帽に営業として入社。石田ファミリーの卓越した技術力を活かすべく、シンプルで美しく、実用的なデザインや企画を提案。
自身も職人兼デザイナーとして、小売の現場に立ち、製造卸から製造小売に転換した同社のブランドイメージ向上に大きく貢献。
業界きっての材料オタクであり、製品づくりも大好き。全国行脚は25年におよび、全国に顧客をもつ。