Change The Cycle Report
新しいサイクルをつくる、みんなのレポート

REPORT
2026.06.26
【3周年記念】ファッション製品のエンド・オブ・ライフをどう設計する?~巡る服の可能性を現場で考えるツアーレポート②~
「無駄にされる服が1着もない世界をつくりたい」
そんな想いから、KISARAZU CONCEPT STORE(以下、KCS)は始まりました。
2026年6月4日(木)、開業3周年を記念し「巡る服の可能性を現場で考えるツアー」と題したイベントを開催。海外ブランドや国内ブランドのサステナビリティ担当者から繊維商社、設計・施工会社、大学、メディアの方まで、服やものの資源循環に関心を寄せる約70名の方が参加されました。
「ファッション製品のエンド・オブ・ライフをどう設計する?」をテーマにしたトークセッションでは、株式会社スズサンの井上彩花さんによる基調講演に加え、ファッション業界における循環型社会の実現に向けた取り組みや課題についてパネルディスカッションを実施しました。
さらに、KCS館内ツアーやファクトリーラボの横に併設する「サーキュラーファーム」での綿花の種植え体験、そして参加者同士の交流会など、熱気あふれるイベントとなりました。本イベントのレポートを2本の記事に分けてお届けします。
この記事では、株式会社スズサン 井上さんによる基調講演の内容をお届けします。
400年の歴史を未来へ。suzusanが挑む伝統技術の継承と「作り手と使い手の豊かな関係性」

suzusanは、名古屋の有松・鳴海地区に400年以上前から受け継がれてきた有松・鳴海絞という伝統技術をルーツとしており、現在ドイツ・デュッセルドルフと名古屋の有松に直営店を構えています。「世界中のライフスタイルに合う手仕事を」というコンセプトのもと、ヨーロッパを中心に30か国にファッションアイテムやホームリビングアイテムを卸しているブランドです。
今回ご登壇いただいた井上さんは、経済産業省ファッション政策室に在籍中に休職し、パリの名門ビジネススクールへ留学、帰国後は現職の株式会社スズサンに入社され活躍されています。産地の技術継承を見据えながら、作り手としてだけでなく、ひとつひとつの商品の届け方にも真摯に向き合うsuzusanの取り組みについてお話いただきました。
「suzusanは、ブランド事業を通じて、『失われようとしていた地域の伝統技術の継承』を目指しています。そのため、お客様に対して、ものを作って販売するということだけではなく、製品を通じて、その背景にある有松・鳴海絞の技術や産地のものづくりの形をお伝えすることで、作り手と使い手の間に豊かな関係性を作り出すことに力を入れています」と話す井上さん。
伝統的工芸品の指定品目が京都市に次いで多い名古屋市の統計によると、小規模事業者(5名以下)が70%以上を占めています。後継者層になり得る20〜30代の職人の数は少ないのが現状です。一方、産地という単位で技術継承される仕組みが今も残っているのは日本のものづくりの特徴だと留学先で気づいた井上さんは、産地システムを守るためには産地に仕事が必要でそのために二つの方向性があるのではないかと、語ります。

「私は、留学を経て、産地の技術継承には大きく二つの方向性があると考えています。1つはビジネスの規模が大きい取引先をグローバルで増やしていくこと。ただし、例えば、売上が数千億規模のグローバルブランドと取引をする場合、一定以上の規模の品質の安定した量産体制に加えて、言語や商習慣の違い、国際認証など対応すべきことが多く、全ての産地に馴染むものではありません。2つ目は、ブランドの形で、生産背景や産地の姿を含めて直接消費者に届けることです。留学中に、後者を実践していたsuzusanに出会い、小規模で少量生産が主体となる手工業が、次世代に技術を継承するための一つの在り方だと感じました」
続いてsuzusanのものづくりの3つの特徴について。
「1つ目は、すべての商品を有松で、自社工房を中心に近隣の職人さんと一緒にものづくりを行っています。つまりsuzusanの背景には有松・鳴海絞という伝統工芸と400年の産地の歴史があるということです。2つ目に、手仕事で生産しているのでたくさん作ることはできません。生産量は年間6000点ほどで、一つずつ個体差も生じます。3つ目は、基本的に日本で生地を仕入れ、産地で絞りを施し自ら販売を行っています。そのため、生産工程が非常に短く生産現場とお客様の距離が近く、お客様や取引先様に直接産地に来ていただき職人と話していただくということもしやすい規模にあります」

こういったsuzusanならではのものづくりの特徴を生かしながら、今後のさらなる技術継承に向けた取り組みについても語っていただきました。
「すべて手仕事なのでミスを完全になくすことはできません。例えば絞りが少し甘いことによって染色した際に滲みが多くでてしまうことでデザインの面から規格外になることもあります。そして、それを隠してしまうと、職人や技術がお客様から見えなくなってしまうため、有松の直営店舗では、なぜその商品が規格外になったのかを説明したうえで、規格外の商品も販売しています。また、作り手のストーリーをより多くのお客様に伝えていくためにウェブサイトを整備してオウンドメディア化することを推進しています。顔の見える距離感を持つブランド規模だからこそお客様に提供できる透明性のあり方もあるのではないかと思います。最近ではお取引先様も含め、お客様が有松まで足を運んでくださるケースも増えてきました。自社工房や地域の職人・工場を案内したり、ワークショップで実際に絞り染めを体験してもらうことで、ものづくりの過程を実体験として感じていただいています。産地の技術を次世代に継承するためのこうした取り組みは、お客様に製品を大切に長く使っていただくことにも繋がっていると感じています。ファッション製品のエンド・オブ・ライフの設計を考えるに当たっても、"作り手と使い手の関係性" は重要な役割を果たすのではないかと思います」
井上さんのお話は、産地と密接にかかわる伝統工芸という手仕事のものづくりを背景にしながら、その産地でのものづくりの持続可能な形を模索しつづけ、そしてこの規模だからこそできる作り手と使い手の関係性をより豊かに育んでいくというブランドのあり方として、示唆に富んだ内容でした。
井上さんの基調講演のあとは、以下4名の登壇者とWWD JAPANの向千鶴さんをファシリテーターにお迎えし、「ファッション製品のエンド・オブ・ライフをどう設計する?」というテーマについて本音ベースでのパネルディスカッションを実施しました。そちらの様子は以下の記事よりご覧ください。

登壇者
◎パネルディスカッションの内容はこちらから:https://kisarazu-concept-store.com/report/report-20.html#panel-discussion
ドイツ・デュッセルドルフ在住の村瀬弘行が、2008年に立ち上げたライフスタイルブランド。
Designed in Düsseldorf / Made in Arimatsuの体制のもと、有松・鳴海絞の伝統技法を継承した風通しの良いデザインを届ける。
