Change The Cycle Report
新しいサイクルをつくる、みんなのレポート
REPORT
2025.01.10
【前編】徳島県の上勝町ゼロ・ウェイストセンター“WHY”から学ぶ、暮らしに取り込む資源循環の在り方
徳島市内から車で約1時間の山間部に位置する上勝町は、人口約1,400人ほどの町。上勝町といえば、料理に彩りを添える「つまもの」として、山々にある葉っぱを栽培・出荷・販売する「葉っぱビジネス」を1986年からスタートし、全国シェア8割にものぼります。そんな上勝町は、今や葉っぱビジネスだけではなく、サーキュラーエコノミーのパイオニアとしても注目を浴びています。
2003年、町内から出る焼却・埋め立てごみをゼロにするという目標を掲げ、日本の自治体として初めて「ゼロ・ウェイスト宣言」を行った徳島県上勝町。自治体と町民、地域事業者とが会話を重ねながら「ゼロ・ウェイスト」の実現に向けてさまざまな努力を行っています。
KISARAZU CONCEPT STORE(以下、KCS)チームとして、上勝町が目指す循環型の社会に向けたさまざまなアクションからヒントをいただくべく、2023年12月に上勝町を訪問しました。
上勝町が推進する“ゼロ・ウェイスト”の拠点「上勝町ゼロ・ウェイストセンター“WHY”」では、ちょうど徳島県内における廃棄衣類削減と循環を目指し、環境省による『令和5年度使用済み衣類回収スキームの構築に向けたモデル実証事業』の採択を受けてスタートした「KURU KURU Fashion Project(くるくるファッションプロジェクト)」の一環でイベントも開催されていた時期だったため、本レポートでは前編・後編に分けてその様子をご紹介いたします。
前編では「上勝町ゼロ・ウェイストセンター“WHY”に学ぶ循環型の暮らし」について、後編では「くるくるファッションプロジェクトに学ぶ、廃棄衣類削減に向けて今私たちが考えること」をまとめます。
▼後編はこちら
https://kisarazu-concept-store.com/report/report-12.html
上勝町ゼロ・ウェイストセンター“WHY”とは
2020年4月に、町内唯一のごみ収集場(旧ゴミステーション)をリニューアルし、上勝町ゼロ・ウェイストセンター“WHY”をオープン。「ゴミステーション」に加えて、まだ使えるものを無料で持ち込める「くるくるショップ」、「ラーニングセンター&交流ホール」、「ラボラトリー」そしてゼロ・ウェイストを体験できる「HOTEL WHY」を併設し、国内外からの視察や取材が絶えない本施設。
なぜそれを買うのか?
なぜそれを捨てるのか?
なぜそれを作るのか?
なぜそれを売るのか?
上勝町ゼロ・ウェイストセンター“WHY”は、WHYという疑問符を持って生産者と消費者が日々のごみから学び合いごみのない社会を目指しています。
https://why-kamikatsu.jp/
ゼロ・ウェイストを体現する“建築”
上勝町ゼロ・ウェイストセンター“WHY”の建物は、町民から不要となった建具や廃材などを譲り受けつくられています。さまざまなサイズの窓も上勝町ゼロ・ウェイストセンター“WHY”を印象付ける意匠の一つになっています。
宿泊施設「HOTEL WHY」の空間ももちろん同じコンセプトでデザインされており、リユース・アップサイクルの素材でできています。
「これはお店の引き戸だったのかな~」なんて会話が生まれるのもリユース素材ならでは。
KCSも空間デザインについてはサステナビリティをかなり意識しています。地球にやさしいエシカルマテリアルを採用したり、将来的なリニューアルや一部廃棄などが発生した際に分別しやすいよう単一素材を使用するなど施工上の工夫も行っています。また、店内什器には、複数のブランドさんの店舗で過去使用していた什器を引き取らせていただき使用しているものも多く、テイストの違う什器を空間デザインの中で再編集することで、ユニークな空間に仕上がりました。内装工事中に発生するごみはきちんと分別し、トレーサビリティを確保することで、内装リサイクル率100%を達成しています。
https://kisarazu-concept-store.com/report/report-1.html
そういった部分では、HOTEL WHYの建築デザインの思想とも共通する点もあるのではと感じました。
上勝町に学ぶ、意識変容と行動変容を促す体験設計とコミュニケーションデザイン
現在、再資源化率は80%を超えている上勝町。町にはごみ収集車は走っておらず、生ゴミはコンポストを利用して各家庭で堆肥化しています。上勝町では、1991年にコンポスト購入初度制度を開始、さらに1995年には電動生ごみ処理機購入補助制度を開始し、町民の自己負担を減らすことで普及を促進しました。今では、80%のご家庭がコンポストと電動生ごみ処理機を導入しています。
資源ごみは住民各自がゴミステーションに持ち寄って43種類に分別、まだ使えるものは併設のリユースショップ<くるくるショップ>に持ち込んでいます。
43種類にゴミを分類するのは、想像以上に住民一人ひとりへの負担は大きいはずです。紙パックはきれいに洗って乾かしてから出す必要があります。プラゴミや缶、瓶、ペットボトルなどももちろん同様です。日々の生活の中で一人ひとりが小さな努力を積み重ねるためには、自分ごと化することがとても大事だと感じました。そして、上勝町ゼロ・ウェイストセンター“WHY”には、生活者の自分ごと化を促す仕掛けとアイデアがいくつもありました。
●わかりやすくゴミの行先とお金の「出」「入」を明記
すべての回収ボックスには、それぞれ再資源化するためのリサイクル先とそれが何に生まれ変わるのか、そしてこの資源によって町にお金が入ってくるのか、出ていくのかが数値として明記されています。この表示は非常に大事なポイントだと感じました。ただ「ゴミを分別する」という行為ではなく、それらが“資源”としてどういう循環をするのかを見える化することで、それはゴミという意識ではなくなります。
さらにこれらの分別ブースを過ぎた先にあるのが、ストックヤード。
一輪車をリメイクした回収ボックスには「焼却物(どうしても燃やさなければならないもの)」という記載。行先は「焼却・埋立処理」。
このような表現により、極力ここに捨てるものは減らさなければという気持ちにさせられます。自分自身のゴミの分別という行動によって、その先に何が起こるのかを想像させるこのゴミステーションの設計、コミュニケーションデザインは、KCSにも生かせるヒントがたくさんありました。
もう一つ、町民の行動変容を促す仕掛けがありました。それが「ちりつもPoint」。
これは、上勝町民が対象の資源物を分別したり、量り売りで商品を購入したり、レジ袋は使わずマイバッグで買い物をするとポイントがもらえる仕組み。そして、その貯まったポイントを使用して環境に配慮した日用品などと交換することができます。
地域の店舗とも連携しながら町全体で余計なゴミを出さない取り組みを実施されています。こうした日々の一人ひとりの小さな積み重ねが、再資源化率80%以上という大きな成果につながっています。
●誰かにとって必要なくなったものは、誰かにとって価値のあるものに
上勝町ゼロ・ウェイストセンター“WHY”には<くるくるショップ>があります。ここは、まだ使えるけど処分するにはもったいないものを持ち込むことができるスペースです。
セレクトショップのように器や雑貨などが並ぶ<くるくるショップ>(写真:Trasns)
このくるくるショップにあるものは、すべて無料で持ち帰ることができます。また不用品を持ち込むとき、持ち帰るときにそれぞれ重さを量り、ノートに記載してもらうようになっています。どれだけものがゴミではなく資源として循環したかということを意識してもらうための取り組みとのこと。こういう小さなアイデアによって、関与する人たちの意識が少しずつアップデートされるのだと感じました。
宿泊体験で意識も行動も変わる!?ゼロ・ウェイストアクションホテル“HOTEL WHY”
上勝町に暮らす町民の皆さんが日ごろ行っているゼロ・ウェイストアクションを体験できるのが“HOTEL WHY”。
チェックイン時に、部屋で飲むお茶やコーヒー、使用する石鹸などを必要な分だけ取り分けて持ち込むところから体験が始まります。
部屋のデザインは前述のとおり、町民などから譲り受けたリユース素材を使っていたり、アップサイクルした家具なども使用。
滞在中、部屋で出るゴミは6種類に分別します。
部屋で分別したゴミは、翌日さらに細かく分別する体験をします。
自分自身の日々のルーティンや当たり前化している行動を変えるというのは簡単なことではありません。
しかし、この先も私たちが暮らし続ける地球の未来に少し目を向け、今足元で起こっているさまざまな社会問題を知ることが、意識を変えるきっかけになります。
そして、自分の行動を変えることがどんな成果につながるかということが見える化されるだけでも行動変容につながるきっかけになるのだろうなと、上勝町の取り組みを目の当たりにして感じました。
後編では、「くるくるファッションプロジェクトに学ぶ、廃棄衣類削減に向けて今私たちが考えること」をまとめます。
▼後編はこちら
https://kisarazu-concept-store.com/report/report-12.html